2005年の改革の一環で、都道府県の「施設」および「特定施設」への給付費については、負担割合が12.5%から175%に高まり、県にとっては「住所地特例」があっても、同じ県内からの入所・入居であれば対象とならないことも、規制が強まった一因かもしれません。
介護保険の導入が議論されている時には、介護費は大きな課題ではありませんでした。
1998年1月13日に開かれた全国介護保険担当者会議の資料において、2000年度の総額4.2兆円が、2005年度には5.5兆円に増加するという推計値が提示され、これに基づいて国会で答弁もされました。
しかし、経済不況で財政赤字が膨らんでいる状況下であったにもかかわらず、コストの問題は不思議にも政策の争点として追究されませんでした。
その理由として、介護保険の導入によって社会的入院がなくなり、医療保険からの支出が減るので、実質的な負担は増えないという、当時厚生省の主張が受け入れられたことが考えられます。
また大蔵省としては、新たに介護保険料を徴収でき、その分、今まで一般財源で賄っていた措置費が減るので、反対しなかったことも考えられます。
さらに、H首相の「国民福祉税」構想による消費税の大幅引き上げが頓挫したことも、新たな保険方式の制度となった一因でした。
実質的には増えない、という主張は初年度である2000年度の介護費については的中し、むしろ予測した4.2兆円よりも少ない3.6兆円に留まりました。
3.6兆円という規模は、前年度における医療保険と福祉費用から介護保険への移管相当分の合計3.3兆円よりも1割多いだけで、これまでの両者の伸び率の実績とほぼ同じでした。
なお、予測よりも実績が少なかったのは、医療保険の対象だった療養型病床群20万床がすべて介護保険に移管するはずでしたが、介護保険料の値上げに跳ね返るなどの理由により、その半分しか実際に移管されなかったためと考えられます。
しかし、その後介護費は毎年2けたの伸び率で増え続けており、2005年度には6.8兆円にまで達しました。
このような介護費の増加を受けて、3年ごとに改定される高齢者に対する月額保険料の全国平均は、2000〜02年は2900円、2003〜05年は3300円であったのが、2006〜08年には4300円になると予測されました。
なお、第1期から第2期における保険料の引き上げが比較的少なかったのは、第1期において保険者である各市町村が、赤字になることを心配して、給付費を比較的高めに予測したためでした。
介護費の大幅増加が、次節で解説します改革の引き金となり、その成果もあって、2006〜08年の保険料は4090円に下方修正されました。
しかし、それでも医療保険と比べて伸び方は突出しており、しかも仮に2005年の介護費が6.8兆円ではなく、5.5兆円に留まったとしても、大きな伸びが制度の設計段階から織り込み済みであったわけです。
その理由は、国民が介護サービスを受ける権利があることを認識し、サービスの提供体制が整備されるまでには時間がかかると考えられたことにあります。
これは介護保険の給付を、サービスに限ったために起きた当然の帰結で、もし現金給付という選択肢が用意されていれば、適格者は初年度から全員申請すると想定されますので、需要の顕在化には時間がかからなかったはずです。
ちなみに、家族の介護者に対して現金による給付という選択肢を用意したドイツでは、受給者は大きく増えず、また介護保険の保険料率は創設時から固定されています(サービスの給付を選ぶ割合の高まりなどの理由で介護保険財政は財政的危機に直面していますが、財政問題が制度導入の最大の論点であった点が日本と大きく異なります)。
そこで、日本における政策上の問題は、介護費が増えたことではなく、増え方が予測よりも多かったことにあります。
私は、その最大の理由は、認定者数が予測を上回ったことにあると考えます。
というのは、65歳以上の高齢者に占める認定適格者の割合は、当初12%と予測され、事実2000年度には10%しか認定されていませんでしたが、2005年度には16%にもなりました。
つまり、介護保険制度が施行され、申請を受けつけないと、認定適格者がどのくらい地域に存在するかがわからなかったのはやむをえませんでしたが、結果的には、施行前の実態調査などに基づいた予測を上回る割合で適格者が現れたわけです。
このような状態に対応する正攻法は、認定基準を見直し、より厳しくすることです。
しかし、いったん権利として認めた給付基準を切り下げることは難しかったので、2005年の改革では実施されませんでした。
その代わり、在宅では「要支援者」に対するサービスを新たに規定した「予防サービス」に限定し、施設では入所者に居住費の一部を給付の対象からはずすと同時に、事業者などに対する規制を強化して質の向上を図りました。
なお、経済財政諮問会議から、利用者の負担割合を1割から2割に上げる案も出ていますが、本格的に議論されていません。
医療と比べて介護の方が価格弾力性は高いので、負担割合を上げれば、給付費だけでなく、需要も抑制されると想定できます。
しかし、低所得者を直撃することになり、また高所得者に限定して上げますと、高い保険料を払いながら利用者として負担する金額も高いという不公平感が高まるので、私は反対です。
以下、次節においてそれぞれの改定内容について説明します。
新たに規定された「予防サービス」は、主に通所施設(昼間だけ通う施設)において提供される筋力トレーニング、栄養改善の相談、および岨畷や職下を改善するための口腔機能の向上です。
給付が「予防サービス」に限定されるのは、認定審査会で「要支援」(改革前の「要支援」)、および「要支援2」と判定された人々です。
なお、「要支援2」とは、「要介護1」のうち、新たに追加された11項目の評価結果および医師による医学的理由の意見書により、予防の対象として判定された者です。
2006年4月より、新規および更新時に順次適用され、その結果、次の理由により介護費の削減が期待できます。
第1に、予防給付となった場合の給付限度額は、従来よりもサービスの単価が低くなったこともあって、2割程度少なくなっています。
第2に、予防サービスによって身体機能は改善するかもしれませんが、ヘルパーによる家事援助や福祉用具の貸与と比べて魅力が乏しいので、認定されても給付を希望する割合が減る可能性があります。
第3に、家事援助ならいったん開始されるとずっと継続されますが、予防サービスなら1クールが終われば、後はフォローアップだけ行えばいいことになります。
以上のように、「予防」によってコストの削減が期待でき、しかも介護保険創設の目的である「自立支援」と両立する形で実現されますので、施策として高く評価することができます。
しかしながら、コスト削減の効果は限られていると考えられます。
まず、改革前の「要支援」と「要介護」に対する介護費は、総額の6分の1にすぎません。
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